scene6 2日後・・・南青山高校掲示板前 最近の入試はマークシートを導入しているせいか結果が出るのがえらく早い。一週間かからずにもう掲示板に合格者が貼り出されている。 え〜と・・・13725番・・・13725番と・・・ ・・・・・・あった。めでたく合格だ。これで4月からは俺もまぁちゃんと同じ学校に通うことができる。 入学案内書を受け取ると俺は軽い足取りで外に飛び出した。 「ふ・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」 思わず叫んでしまう。やはり誰かに認められるというのは嬉しいものだ。たとえそれが本当の自分の姿ではなくても。 その日、帰り道の駅に向かう道には嬉しそうに友人と会話をする同年代の子ども達、落胆した顔で独り帰っていく少年、 補欠入学だったのかまだその顔の不安をぬぐいきれない少女・・・どこか誇らしげな顔をする両親・・・さまざまな顔が行き交っていた。 俺も・・・たくさんの嬉しさと、そしてもうじき終わる中学生活への名残惜しさ、これから始まる新しい生活への期待と不安で 胸がいっぱいだった。 まだ春には少し遠い東京に・・・やわらかな光とすこし冷たい風が通り過ぎた・・・ ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- scene7 築地中学校講堂 「ほた〜るのひか〜り〜まどのゆ〜き〜♪」 定番の歌が流れ、女の子はみな泣き、男どもも感慨深そうな顔をしている。卒業式。ひとつの節目であり、一生に一度しかない行事。 本当は毎日が生涯に一度しかない日々だが・・・その中でも特に区別してしまう日。あまり季節を意識しない俺でもなにかこう ぐっとくるものがある。 scene7'銀座4丁目木挽町病院 この一ヶ月は本当に楽しかった。授業もほとんどなく、友人・・・といってもまぁちゃんぐらいだが・・・もまた余裕のある表情をして いる。資本主義社会のもとでただ能率だけを求められて生きてきた自分にとってはあまりにも・・・ゆっくりと時間の過ぎた時期だった。 もちろん何もせずただ自堕落に過ごしていたわけではない。親の紹介で外科医の先生のもとに行き、放課後にはそこで下働きをしていた。 さまざまな患者が診療に訪れる、あるいは救急車で運び込まれてきていた。 事故に遭ったあとの経過を見せにくるものや長年の苦労が体に染み付いている老人、喧嘩にでも巻き込まれたのか、頭から血を流して 運び込まれる少年・・・病院というのは一番社会の状態を映す鏡なのかもしれない。 「それにしても吉住先生・・・無免許の俺がこんなことやってていいんすか?」 「ああ・・・まあ気にしない気にしない♪君ぐらい器用なら何の問題もないよ」 今俺は頭に怪我を負った少年の縫合をやっていた。こんな会話を間近で聞かされて少年は震えていたが、そんなことに頓着する様子もない この先生の図太さというか無神経さが怖かった。いやまあ、話題を振ったのは俺なのだが。 「いい加減ですねえ・・・営業停止くらいますよ」 「大丈夫。私は国に私的なパイプラインを持っている。どうとでもなるさ」 「いつか捕まりますよ・・・」 俺は半ば呆れてはいたが、この吉住孝助氏の腕は確かで、外科医としての名声を欲しいままにしていた。ひとにものを教えるのもうまく、 ここに来て1ヶ月以上になる俺もかなり技術が上がっていた。さすがに命に関わる仕事は見学すらさせてくれなかったが。 「・・・よし、終わり。次は気をつけろよ」 「あ、ありがとう・・・」 縫合と消毒が終わり待合室に去っていく少年の目にはやや恐怖の色が見えたが・・・まあ無視。完璧に仕事はしたからな。 「さて・・・本日のお仕事は終わりかな?」 「そうっすね、もう5時過ぎですし」 「うん、じゃあお疲れ様。私はミーティングがあるからもう少しかかるけど君は上がっていいよ」 「了解。じゃあお疲れ様でした」 ちょうど帰ろうと裏口から出ようとしたときに救急車のサイレンが聞こえてくる。 お、止まった。表かな? 様子を見にいこうとしてスタッフに止められる。 「すいません、どいてください!」 「ああ、はい・・・急患ですか?」 「ええ・・・って君は?」 「いや、通りすがりの見習です」 「じゃあ関係ないですね、患者さん通りますんで道をあけておいてください」 「あ、はい。じゃあ場所を確保しておきます」 大変だな・・・吉住先生は残業か・・・ あの先生の好きなところは飛び込みの患者であってもその場にいれば自分で診るところだ。 普通時間外診療は下っ端の医師に任せるのだがあの人はできる限り自分でやろうとする。 「手抜きができない性質なんだ」と苦笑いしながら言っていたが俺は尊敬している。 やっぱ医療に関わる人間はああでなくちゃなあ・・・俺に簡単な診療任せてるのはどうかと思うけど。 先生曰く「若い奴のチャンスを奪う気はないよ。私がやったことのある手術は任せることにしている。 それ以外は自分の研究のために・・・自分でやるけどね・・・ふふふ・・・」 ・・・・・・どこが尊敬できるんだ?ただのマッドドクターじゃないか、それじゃあ・・・犠牲者にお悔やみを申し上げる。 ま、今日は俺も上がりだし。帰ることにしますか・・・ と、目の前にいきなり2人組の女のコが現れた。 そして・・・その顔を見て俺は思わず頭を抱えた。 「見たわよ、少年。中学生がバイトなんかしていいのかしら〜?」 「ぐ・・・センパイ・・・なんで俺の地元に出没してるんですか・・・」 「奇遇ね。私の家もこのあたりなの」 嘘をつけ〜!銀座やぞ!庶民の住める街とちゃうねん!だいたいこんな狭い世界におったらもっと早く会ってるわ〜! ・・・なんて言えるわけもないけど。 実際銀座は昼間こそオフィス街として賑わうが夜間の人口は極端に少ない。かといって住人同士のコミュニケーションが緊密というわけ でもないが・・・ それにしてもなぜ悠センパイがここに・・・ 「・・・嘘よ。そんな顔しないの。買い物に来てただけ。ああ、このコ紹介するわね。私の後輩・・・あなたと同学年になる遥ちゃんよ」 「・・・っていうとそのセンパイの影に隠れている謎のオブジェクトがですか?」 「え?あ、ちょっと、私を盾にしてないでちゃんと前に出て挨拶なさい!もう、私が恥かいちゃうじゃない」 いや、自分の子供じゃないんだからそれは・・・まあ俺としてもちゃんと顔を見せてもらいたいが・・・ 「ほら、ちぢこもってないの!」 そう言って後ろにいたコを前に押し出す。強引だな・・・今に始まったことじゃないけど。 「ひゃあ!」 可愛い声を立てて遥ちゃんとやらが俺の前に立つ。ほお・・・これはなかなか・・・ってオヤジくさいぞ、俺。 「えっと、あの、その・・・よろしく・・・お願いします・・・」 「ああ、よろしくな。え〜と・・・それで苗字は?いや、俺、女のコを名前で呼ぶのって慣れてなくてさ・・・」 「そういえば私のことも未だにセンパイとしか呼んでくれてないわね・・・」 「え・・・いや、その・・・え〜と・・・ははは・・・」 「今度からは悠センパイと呼ぶようにね」 「は、はあ・・・相馬センパイではダメですか・・・?」 「ダメ。却下。」 「・・・わかりました。悠センパイ・・・」 勢いで押し切られてしまった・・・それはそうと。 「それで遥ちゃんは・・・?」 「ちっ、意外と粘るわね・・・」 「へ?なんです?苗字を訊かれるとマズイことでも?」 「なんでもないわよ。さて、そろそろ帰ろうか、遥ちゃん」 「あ・・・はい。それでは涼・・・さん、また新学期に・・・」 「ん・・・わかった。それじゃあセンパイもまた」 「はいはい〜。またね〜」 ・・・ふう。やっと危機は去ったか。それにしても遥ちゃんの苗字が気になるな・・・悠センパイもごまかそうとしてたし・・・ はっ!実は日本人ではなくて昔それが原因でいじめられてたとか!?・・・あんな綺麗な黒髪でそれはないか。 まあ俺の苗字も出てきていないことだしな。ん?何のことかって?気にするな。 さて、今度こそ帰るか・・・ その日の帰り道・・・人の血に染まったなんとなく薄い色の空には・・・わずかに蒼い月が見えるだけだった。 しかし寂しくはなかった。俺はもう独りではないから・・・ ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 再び築地中学校講堂 ・・・なんだかもう相当昔のことのようだな。そんな日々を経て、今俺はここで卒業証書をもらっているわけだ。 「・・・涼君」 おっと、順番が来たようだな・・・俺は「はい」と一応まともな返事をして壇上に立つ。 去年頭がすげ変わった馴染みの薄い校長だ。ついでに頭も薄い。なんだか落語みたいだな。 前の校長はおおらかでなかなかおもしろい事を言う人だったが今度の奴は今ひとつ信用できない。 どこか現代の政治家のような面構えをしている。 証書と一緒に色紙に好きな言葉を書いて渡してくれるというので俺は事前申告で「勝てば官軍」と書いてやった。もちろん厭味だ。 しかしそれを理解したのかはたまたこいつは「それも大事なことだよ」などとすっとぼけたことを言いやがった。わかってて言ったのなら 大物かもしれない。どちらにせよ好きにはなれないタイプの人間だ。 形式的に頭を下げると俺はさっさと席に戻った。そのまま帰ってもいいのだが・・・まぁちゃんの勇姿を見届けたいのと一応来ている と思われる両親への義理で思いとどまった。 ・・・待つこと数十分。そもそも数百人ひとりひとり手渡しすることないじゃないか。昔なんかクラスの担任が渡してたんだぞ。 ・・・って何処の世界の話だ、そりゃ。生徒が1000人以上居ればそんな感じかもしれないがたかだか数百では手渡しで当然かもな。 で、改めて。まぁちゃんの出番である。 お〜お、緊張してやがるな、ありゃ。さすが優等生。ぴっちりキメてますな〜。・・・なんでそんな他人事のようなんだろう。 無事証書を受け取って戻ってくるまぁちゃんに声をかける。 「お疲れさん。あ、まぁちゃんは色紙何書いてもらったんだ?」 そう言いながら色紙を覗き込む。 『私に死の安らぎを、あなたに生の歓びを』 「・・・ますますお前のことがわからなくなったよ、まぁちゃん・・・」 聞こえたのか聞こえなかったのかまぁちゃんはそのまま行ってしまった。 ・・・ある意味じゃあ俺以上にあの校長にダメージ与えてるぞ・・・さすがだ・・・ その後は何事もなく式は進み、定番の歌を歌って終わった。 そして・・・長い春休みが始まった。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- scene8 南青山高校イベントホール 高校の入学ガイダンス。親同伴。これほど面倒な行事はないが仕方がない。 今日は3月26日。春休みの前半は卒業前のあの時間の延長のようなもので、吉住先生のところでバイトをしながら毎日を過ごした。 高校のほうは4月の何日だかからなのでまだ若干の余裕があるということになる。 「でね、その時のお父さんがかっこよかったのよ。”アルファ3降下部隊を順次降ろせ! よし、つづいてデルタ2をポイント2025に投下!”って・・・涼も連れて行きたかったわ」 「親父・・・家族を指揮所に入れるなよ・・・」 俺の親父は国連軍としてトルキスタンに派遣されている。なんでもレイバーとかいうロボットの実験部隊の総指揮をやっているらしい。 なんで日本の大学出て海外の軍に勤めなければならないのか・・・ 1年に一回くらい戻ってくるときのおみやげも多国籍というか無国籍というかでわけわからんし・・・とにかくいまだもって謎な人である。 で、母親。これがまたわからん人で、普段は韓国の大使館に勤めているんだけど事あるごとに帰ってくる。 この前も入試に出発する朝キッチンに立っていて驚かされた。 卒業式の時に来て、その日のうちに帰って・・・そして10日しか経っていない今日また日本にいる。 謎だ。有給休暇なんぞとっくに切れているはずなのに・・・ こんな両親なのに収入源はわりと安定している。毎月仕送りはちゃんと来ているし、借り住まいとはいえ天下に名立たる銀座だ。 心配事はない。 恵まれているといえば恵まれているが・・・小さい頃は誰も居ない家に独りでいる寂しさに泣いたものだ。 独りで住むにはあまりにも広い空間・・・世間から見ればやや手狭だが一年のほとんどを海外で過ごす両親の下では・・・ やはり広すぎるのである。 「そろそろ始まるからちょっと静かにしような」 「え〜、まだまだ土産話がたくさんあるのに・・・」 「あとで聞くから」 「・・・はあい」 どっちが子どもだかわからないやり取りが終わったあと校長が入ってくる。 ・・・以下略。俺は寝ていたのでわからないといったほうが正しい。 「涼、涼・・・そろそろ起きなさい。終わったわよ!」 「んが・・・我が眠りを妨げるものに災いあれ・・・」 「ドラ○エ的なセリフ吐いてる場合じゃないわよ・・・ほら、まぁちゃん待ってるから!」 「む・・・あんな奴待たせておけ」 バキィ!痛恨の一撃が俺の脳天に叩き込まれる。 「さっさと起きなさい。今は朝の"後5分を楽しめる時間"じゃないわよ」 「・・・はい、わかりました、起きます・・・」 ・・・この豹変がこの母親の特徴でもある。これで親父が尻にしかれたに違いない。 「というわけで待たせたな。さあ行こう」 あ、やっぱしまぁちゃんひいてる。 「・・・相変わらず怖いな、涼の母親・・・」 「やかまし。逃げるんだからさっさとせい」 「遊びに行くの?じゃあ夕飯までには戻るのよ」 「わかった。じゃあちょっと行ってきます」 「行ってらっしゃい」 別に仲が悪いわけでもないがやっぱり一緒にいる時間が少ないせいかなんとなく両親は苦手だ。 放任主義で、いい加減で・・・こっちとしては気楽でいいけど。 「さて、それじゃ帰りますか」 「ああ、特に用事もないし・・・ひさびさに高円寺のゲーセンにでも寄っていく?」 「おい、逆方向だぞ・・・だいたいなんで高円寺なんだ?」 「いや、ゲーマーのレベル高いし、安いし・・・なによりメンテがいい。かの柴田亜美先生も御用達 なんだぞ」 「そんなことは知らん」 「相変わらずだな、まぁちゃん・・・」 「まあいいや。予定もないし。とりあえず駅に向かおうか。それから考えても遅くはない」 「あいあい。じゃあ行きますか・・・」 高円寺。そこに俺の行きつけの店がある。猛者と呼ばれるレベルのゲーマーが集う地だ。 なんでも平均的に見ても都内では新宿区が一番強いらしい。 しかし新宿のゲーセンはほとんどが一回100円なので50円でプレイできるここに本当に強い奴らは集まるというわけだ。 ・・・ちなみに高円寺は杉並区なのだが。地域的に近いからいいか。 「さあて・・・まずはぷよぷよだな。そして今日も俺に秒殺されるがいい」 「ふ・・・そうそう何度もやられてたまるか。こっちだってあれから特訓したんだ」 まぁちゃんは本当にぷよぷよが弱い。この前など本当に20秒くらいでケリがついた。俺が8連鎖を起こしている間にこいつはちまちま と消していて・・・ それでも諦めずに挑んでくるのはさすがというところか。最近少し腕を上げたようで「3連鎖が出来るようになったぜ!」とか威張って いたっけ・・・ 「よっしゃ。今日は負けたほうの奢りな」 そう言うとまぁちゃんは困惑した顔をして 「おいおい、初心者をいじめるなよ。せめて1ゲームに・・・」 「ダメ。全部。特訓したんだろ?少しは相手になるだろうに」 「わかった。・・・勝負だ!」 そして50円を入れてスタート。俺はカーバンクル。まぁちゃんはシェゾを選んだ。 「なあ・・・その変態魔導士やめないか・・・」 「いいだろ。なんとなくこういうキャラのほうが合ってるんだ」 「あいあい・・・じゃあ俺は激辛っと・・・」 「じゃあ俺は中辛で・・・」 ・・・・・・数分後。 「ふっふっふっふっふ・・・なんでも奢りだな、涼・・・」 「・・・あ、今日は用事があったんだ。それじゃそういうことで」 「待て!自分からふっかけておいて逃げるんかい!」 「まさかここまで腕をあげているとは思わなかったぞ・・・13連鎖とはな・・・」 「ふ・・・伊達にルルーのルーで鍛えちゃいないぜ・・・」 「じゃあ明日謎ぷよ作ってくるからそれを解けたらってことで」 「ダメ。却下。さあて、まずは何にしようかな。とりあえず池袋あたりまで出て飯を奢らせるか、カラオケにでも・・・」 「ってちょっと待て。ゲーセン内だけだろ?なんで外まで・・・」 「ダメ。全部。・・・とか言ってたのは誰かな?」 「あ、ほんとに用事があるんだよ、頼む」 「見逃しません。今日を逃がすと永遠にチャンスが来ないような気がするし」 ・・・俺はあっさり逃亡を諦めた。いままでに巻き上げた金の負い目もあるが、それ以上にまぁちゃんと外で遊ぶ機会はあまりないからだ。 こいつはもともと家で独りで遊ぶのが好きなやつだからな・・・俺が連れ出さないと3日くらい外に出ないことすらある。 「わかったよ。でもあんまり余裕はないからある程度で勘弁してくれな」 「涼の財布の中身くらいは把握してるつもりだ。そんなに無茶は言わないよ」 「さんくす・・・」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- scene9 池袋 東武百貨店11階・・・レストラン街の片隅 「で・・・なんで俺らはこんなところに居るのかなぁ?まぁちゃんよぉ?」 「いや、だから財布の中身を把握した上で最大限使えそうなところ。なにか問題が?」 「・・・5000円以内に抑えてくれ、頼む・・・」 「大丈夫。酒さえ頼まなければそんなにいかないって。あ、すいません、カシスオレンジと石焼カルボナーラを」 店員さんが注文を取っていく。そして俺は声には出さずにカシスオレンジは酒じゃないのかとつっこんだ。 しかしまぁちゃんにそんなつっこみは無駄である。それがわかっているから言わない。こいつは卒業式の帰りにうちで日本酒一本空けて いった男だ。俺は2日ほど・・・3日酔いというのを体験したが、まぁちゃんは次の日普通に起きて朝食まで作っていった。 のでそんな大酒飲みに「酒を飲むな」とは言えない。 俺はノリを合わせた。 「え〜と・・・じゃあブラッディマリーとマルガリータのピッツァ・・・それとフライドポテトとそこにある鳥ください」 「かしこまりました」 この店はカウンターに冷製の料理が並んでいる。名前がわからなければそれを指差して頼めばいい。そうまぁちゃんが教えてくれた。 「しかし・・・なんでこんな店知ってんの?」 俺は思わず訊ねる。ここのレストラン街は5階分もあって、その中から迷わずここをチョイスするというのは・・・ 「ああ、昔ちょっとね・・・彼女と」 「な、なんですと!?おまえちゅ・・・あ、え〜と、とにかく、のくせして付き合ってたコがいるのか!?しかも過去の話!?」 「男には秘められた過去があるのさ・・・」 「ぬぬぬ・・・詳しく聞かせろ〜!」 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- ・・・・・・2時間後。 scene10 銀座3丁目 「は、はれ?ここどこ?」 辺りを見まわす。どうやら自宅前のようだ。 「どこって・・・おまえのせいで店を追い出されて引きずって帰ってきたところだよ・・・」 お、まぁちゃんだ。ということは・・・俺は潰れたのか?ぐ・・・頭が痛い・・・ 「暴れた・・・のか」 「ああ、暴れたよ。思いっきり。『おまえ中学生のくせにそんなところまで〜!』とか言ってね。で、追い出されたわけ」 「そ、そうか・・・悪いことをしたな・・・」 「二度とあそこには行けなくなったな・・・結局食い逃げだし」 「む・・・すまん・・・」 「いいよ、別に。おもしろかったしね」 そう言い微笑む。こいつにはかなわないな・・・ 「さて、明日からどうする?高校の授業の予習でもする?教科書ももらってきたし」 「馬鹿言え。残り少ない春休み・・・遊び倒してやるぜ!」 「それでこそ涼だ。じゃあ今日はお休み。また明日!」 「おう!」 その宣言通り俺達は次の日から思いつく全ての事をやった。悪い事もしたし、他人の役に立つこともした。そして・・・ ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- scene11 四谷 土手桜並木・・・ 3月30日。毎年恒例お花見である。今日はまぁちゃんもその他のみんなも抜き。ここは・・・あの時代の人々の聖域だから・・・ 「吸うか?」 おもむろにみーくんが煙草を勧めてくる。 「じゃ、じゃあ一本もらいます・・・」 火をつけてくれる。が、うまくつかない。 「あ、あれ?」 「馬鹿、息を吸いながらじゃないと火はつかないぞ」 「おお、なるほど・・・」 その昔、銀座に京橋小学校という学校があった。しかしその当時財政的に行き詰まっていた文部省はその一等地にある学校を潰し、 マンションを建てようとしていた。 生徒募集の張り紙が破られたり、他の学区から通う子供を受けつけていないように見せかけたり、ありとあらゆる妨害工作の結果 俺の母校は廃校になった。最後の卒業式・・・同時に閉校式ともなったその日、俺は泣いた。・・・子供にはどうしようも ない形で潰されたことが・・・汚いオトナのやり方が・・・ただ悔しくて・・・ みーくんもその時同じ涙を流した仲間だ。以来年に数回ではあるが俺達は飲みに行ったり遊びに行ったりしていた。 「みーくん」 「先輩、だろ?」 「みーくんでいいんだよ。俺には・・・」 「そうか・・・」 「芝生・・・気持ちいいねえ・・・」 「そうだな・・・」 そのやり取りだけで俺達には十分だった。言葉はいらない。同じ痛みを持つものにしかわからない不思議な時間・・・ ここに・・・過去も未来もつめこんで・・・現在という時間を生きる。 黄昏。空が紅に染まり、夜の帳が落ちる。そして同じ刻を生きた者の時間もいつしか終わり・・・ 新しい時代が始まった。                                       Junior High school part was ending.                                       But...... continue to the next scene.......