目が醒めたらそこには光があふれていた。 夏。いつまでも変わらない季節。いつまでも煩く鳴きつづける蝉・・・ セカンドインパクト以前を知る者は秋というものが懐かしいという。 しかし私にはその郷愁や感慨というものは一生理解しえないものだろう。 「・・・ここは?」 「世界のはじまりと終わりだよ」 そう答えたのは渚カヲルだった。 「全ては・・・終わったのか?」 「その答えはここにはまだない。これからシンジ君が決めるところだよ、モトヤ君」 「その名前で呼ぶな。私の名前はモトだ。それ以上でも以下でもない!」 「どうして君はせっかく母親から授かった名前を大事にしようとしないんだろうね?君の名前はいい名前だよ」 「・・・」 「どうしてあの薄暗い倉庫で死んだはずの自分がここにいるかを訊きたいようだね。その前に・・・君はどうしてここに僕がいることに 違和感を覚えないんだい?」 言われてみればそうだ。報告では渚カヲルは17番目の使徒として初号機に殲滅されたはずだ。 「それがひとつめの答えさ。僕達は今ひとつになっているんだよ。心も身体もね。そして人々がそれぞれの殻に戻るか、或いは永遠に このままか・・・その答えを求めてシンジ君は今終わる世界を彷徨っている」 「ならばなぜ我々はここにいる?それは碇シンジが決めることだろう」 「その答えも君は知っているのではないかな?すべてはゼーレのシナリオ通りに・・・それがあの老人達の口癖だろう?多少の イレギュラーはあったにせよ概ね彼らの思惑通りさ」 「では他の者たちも・・・」 「そう、君に殺された者も、君の仲間に殺された者も、みなここにいる。いや、在るといったほうが正しいかもしれないね」 「・・・」 「会ってみるかい?モトヤ君」 「いやだ。きっと恨んでいるに違いないんだ。私をもう一度殺そうとするに違いないんだ!」 「そんなことはないで」 ふいに鈴原トウジが現れる。 「おまえもいろいろと苦しんでいたんやな。わいはもうあの無機質な病室に思い残すことはなかった。あれでええんや」 「・・・トウジ」 「そうよ。どのみちあそこに居ても死んでいたわ。あなたは私の家族を巻き込まなかった。立派よ」 「・・・委員長」 「君に一矢報いれなかったのは残念だけどね。まあしょうがないんじゃないか」 「・・・ケンスケ」 「・・・だけど・・・私がみんなを殺した事実に変わりはない。私がみんなを・・・」 「でも、君はここにいる。それは君が自分で決めたことだろう?」 「・・・そうかもしれない。だけど罪は罰をもって贖われるべきなんだ・・・」 「かぁ〜。そんなもんはタテマエやで。そない思うんやったらなんでおまえさんは消えてへんねん!」 「そうよ。本当にそう思っているなら心の壁のない今、あなたはもっと傷ついているはずよ」 「そうやって、自分の心を偽っていてもここでは無駄なんだよ。だから・・・」 「うるさい!私の中に入ってくるな!心の中を読まないでくれ!」 「ほら、それが君の選択だよ。心の壁が互いを傷つけても、他人が自分と違うことを願う、世界の存続を願う君の心だよ」 「そうかもしれない。・・・いや、そうなんだ、きっと。私はもう独りになるのがいやだったんだ。同じ自分の中で苦しむ のがいやだったんだ!」 「何を・・・願うんだい?」 「願い・・・それは・・・世界の存続・・・私だけでなく、みんなの世界・・・そう、それを私は強く欲しているんだ」 「そう。強く願うことが世界を存続させる。手を貸してくれとはいわない。でも・・・シンジ君を見守って欲しい。すでに終わって しまった僕からのささやかな願いだよ」 「じゃあ強く願えば別の現実が待っているかもしれないのかな?」 「・・・そう。すべては心の持ちようなんだ。君がそのことに気付けたことに心からこう言うよ。・・・おめでとう。」 「おめでとう」 「おめでとさん」 「めでたいなぁ」 拍手が上がる。そして新しく「知った」みんなが口々におめでとうといってくれる。 今まで自分を培ってくれた現実にありがとう 今まで私を守ってくれた人にさようなら そして・・・すべての子供達に・・・ありがとう                                                  終劇 ・・・彼の物語はここで終幕を迎える。だが・・・心の補完は・・・                                                  続く