Farewell to my undisturbed day,and welcome to strange acutual........
俺はこのまま目的地に向かうのはあまりにも無謀だと思った。何の方策もないままつっこんで行くのは蛮勇だ。勇気ではない。 そんなどこかで聞いたことのあるフレーズとともにまずはバックアップをしてくれる人間を捜すことにした。
どんな人間にも過去はある。そして俺のような他人とあまり接点を持たないものとてそれは例外ではなかった。
「まったく・・・つくづく携帯ってのは便利だよな・・・」
まずは警察。これはあまり当てには出来ないが何かあったときに後片付けくらいはしてくれるだろう。俺は中学時代からの友人清水に 電話をかけた。
「もしもし、ああ、俺だ。ひさしぶりだな。実は・・・」
・・・よし、これでいいだろう。これで身元不明死体の可能性はだいぶ減った。 なにやら通話の最後に叫んでいたような気もするが無視した。
関係ない人間はなるべく巻き込みたくはない。あくまでなるべくだが・・・
次は武器のエキスパートだ。自衛隊。訓練を積んでいるプロの殺人集団。一昔前は平和維持のためにあったらしいが今はただの治安維持 部隊に成り下がっている。しかしまたもや中学時代の友人か・・・
俺は高校、大学は私立の名門だったためまともな奴が多い。俺はなんとなくそういう奴らとは気が合わない。そのころの奴で 今でも付き合いがあるのは圭司くらいなものだ。 そんな俺だから大学を中退して専門学校に行ったのかもしれない。単にひねくれているだけともいえるが。
三浦雄太か・・・あいつとはこの前の仕事あけに呑み比べをしたっけな・・・あの平穏な日々はもう終わりを告げたわけだ。そう 考えると俺に失うものがなくてよかったとすら思える。
だがあいつにはそれがあった・・・去年テロで妻を亡くしている。今思えばそのテロもWALTZの仕業だった。 そんな感情すら利用しようとする自分に腹が立ったが・・・俺が頼れる人間は数少ない。仕方ないな・・・
そうやって俺は何度俺のエゴを通せば気が済むのだろう?何度他人を傷つけてもそれを振り返ることなどない・・・それでも 自分が前に進める可能性があるなら・・・だがこれが最も劣悪なエゴの通し方だろう。
電話をかけると雄太はすぐに応じてくれた。やっぱりいい奴だな・・・たとえ奥さんのことがなくとも協力してくれただろう。
情報は問題ない。何か新しい動きがあれば先生が知らせてくれる。あとは・・・そうだな、俺には待つことしか出来ないだろう。 ・・・つくづく無力だな、俺は・・・くそ・・・
俺は待ち合わせ場所に着くとコーヒーを買って飲む。・・・少し寝ておけばよかったかな。もう朝4時過ぎだ。かれこれもう24時間 近く寝ていない。そういえばちょうど24時間前はまだ空港だったんだな。まったく、一日でこんなに運命が変わるとは、人生って のは皮肉なもんだ。
しばらくすると奴のジープが止まる。 「よお、まだそんな骨董品を使っているのか。随分酔狂な奴だな」 「そっちこそまだ時差ぼけしてるんじゃあないのかな。靴紐、ほどけたままだぜ」 「え?そうか?・・・って俺は革靴だ、そんなものあるわけないだろ」 「ほら、確かめる時点でまだボケてるんだよ。少し寝てろよ。たしか今日帰国のはずだったんだからほとんど寝てないんだろ?」
俺はその言葉に苦笑して「ああ、そうさせてもらうよ」とだけ答えて車の後部座席に寝そべった。
・・・そうだな・・・まだまだ先は長いんだ・・・休んでおかないと・・・どうせすぐに動けるわけでもないし・・・な・・・
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しばらくすると約束の時間にあいつらが現れる。 「おまえたちか・・・」 「三浦雄太様ですね。キャリス様のご命令で相馬裕次郎を引き取りに参りました」 「そうか・・・残念だがその命令はキャンセルだな。俺がゆ〜じを直接本部に連れていく。そう伝えてくれ」 「は?・・・しかしそれでは・・・裏切るおつもりですか」 「結果としてそうなるかもしれないな。俺は友人を売る趣味はないのでね。おとなしく帰ってくれ」 そういった瞬間雄太の背中からロケットランチャーが現れる。 「悪いが・・・死んでもらう」 どか・・・瞬間辺りを光が覆う。 しかしそれはただの照明弾だった。 「ふっ・・・騒がせるわけにはいかないからな!」 そう言い放つと雄太はアサルトライフルを取り出した・・・
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・・・どれくらい眠っていたろうか。気が付くと外が騒がしい。俺は少しだるい身体をどうにか動かして外に出る。
「お〜お〜、こりゃ派手にやったねえ・・・」
そこには10人近い黒服の死体が並んでいた。
「そっちこそ派手に寝てたな。これだけのドンパチに気付かないで寝てるんだからよ。というわけだ。やはりつけられていたようだな。 少し移動するぞ」 「ああ、わかった。でもそっちの車に乗せてくれね〜か。俺はこの新車をおじゃんにしたくはないんだ」 「まったく・・・それだって十分骨董品なくせに全然乗らないからきれいなだけじゃないか。まあいい、乗れよ。荷物積んでな」
「で・・・どこに向かう?」 「米軍基地だ。新潟のほうのな。長野へ向かう道は封鎖されているだろうから少し回り込んだほうが安全だ。そこでレイバーを借りて 空から乗り込む。その後吉住を助け出して出来ることならその施設も破壊する」
レイバーというのは5,6年前に発表された十数メートルほどの小型の人型兵器だ。もともとは土木作業用に設計されたものだが、 その汎用性から水中、空中、果ては宇宙にまでそのシェアを拡げている。もちろんそれに伴い使用法も軍事利用方面に 向かっているわけだ。
「随分と過激な話だな・・・地対空ミサイルで落とされたりしないんだろうな?」 「その心配はない。あそこには最新のステルス機‘ヘルダイバー’がある。おまえさんにも別のものを用意させてる。新型の オートマティック機をな。」 「俺まで乗るのか・・・同乗は無理なのか?」 「ああ、量産されたとはいえまだまだ実験段階でコックピットは狭い。・・・安心しろ、オートだから素人でも大丈夫だ」 「自分でも動かせるんだろ?マニュアルを貸してくれ。レイバー一種免許は持っているんだ。30分あれば十分動かせるようになる」
俺はオートマティック機というのは信用していない。雄太が操縦するならまだしもそんな怪しいものに乗りたくはないからな。
「・・・本当は国家機密なんだが・・・まあゆ〜じなら新聞記者に売ったりはしないか。ほらよ。心して読んでくれ」
とりあえずざっと目を通す限りたいして難しくはないようだ。 「で、ちょっと質問。このサテライトシステムってのはなんだ?」 「ああ、それは衛星を使って機体をバックアップするシステムだ。その機体はメインCPUは本体にはなくて衛星からのデータリンク で動くようになっている。だからこそ相手を完璧にとらえたオートメーションが可能なわけだ」 「なるほどね・・・で、これをカットされると動けなくなる・・・と」 「いや、情報が遮断されるだけだ。外部との接触がスピーカーと無線しかなくなるが動きそのものは格段にあがる。宇宙の上とその場で 処理をするのでどちらが早いか考えればわかるだろう」 「ほうほう・・・わかった。で、相談なんだが、武装はこのシールドとアタックナイフだけにしてくんね〜かな。危なっかしくて俺には 使えね〜よ。殺しは軍人の仕事だろ」
言ってから俺はしまったと思った。そう、そのはずなのに彼の妻は軍人でもなんでもないただの怪しい連中に殺されたのだ。
「・・・ああ・・・そうかもしれないな・・・だがな、ゆ〜じ。何の目的も無い殺しなんてあるはずがないんだ・・・普通ならな」
・・・・・それっきり二人は黙ってしまった。奇妙な沈黙だ。
過去を引きずって生きるものと過去を現在にすり変えて生きようとするもの・・・ どちらもどこか間違っている・・・そんな気がしてならなかった。
俺は・・・やはり現実から逃げているのだろう。どこか自分に力があることなど偶然で片付けようとしている・・・ いや、そうじゃない。自分にそんな力があると信じているからあんなばかげた集団と対立しようなどと考えているのだろう。 くだらない・・・くだらない人間だな・・・俺も・・・
やがて物騒な鉄条網に囲まれただだっ広い土地が見えてくる。米軍新潟基地だ。 衛兵が門を閉ざしている。・・・日本人か。なんか妙だな。
「失礼致します、身分証をご提示願えますか」 「ああ、・・・ほらよ。こっちは連れだ。作戦に協力していただく」 「・・・ご協力ありがとうございます。どうぞお通りください」
・・・なんだかほとんどチェックした形跡が無い。顔パスなんだろうか。
「なあ、ひょっとして雄太だいぶ出世したんじゃないか?今ほとんど見咎められなかったぞ、俺がいたのに」 そういうと彼は苦笑して、 「・・・まあな。一応これでも陸軍大尉殿だからな。ある程度は顔が利く。便利でいいだろ?」 「・・・まあな」 俺も苦笑を返す形にになってしまった。
その基地はかなり大規模だった。広さは東京ドームが数十個以上は入る大きさだ。そこにトラックフィールド、体育館らしき施設が 3つ、訓練用と思われる雑木林と兵舎が点在している。 俺は率直な感想を述べることにした。 「へえ、随分まともなものもあるじゃないか。厩舎まであるんだな。お・・・」 俺はそこに並ぶ数千もの戦車や輸送トラック、レイバーにあっけにとられる。 「すげえな・・・これだけあればクーデターでこの国を占拠することも可能だなあ・・・」 「物騒なことを言うなよ・・・本気でやろうと騒ぐ連中だっているんだ。今の時期に刺激するような発言はよしてくれ」 「へいへい。わかったよ。士官殿ってえのはいろいろと大変だな」
しばらく走って兵舎のひとつにジープを止めると、「こっちだ」といって雄太は歩きはじめた。
そこで俺は簡単なレクチャーを受ける。軍の正式な作戦ではなく個人的な‘用事’として処理されるらしい。 少し妙ではあるが、大尉くらいの階級になると多少は融通が利くんだろう。事実さっきも顔パスだったわけだしな。
ざっと説明が終わったところで雄太が口を開く。 「まあこんなところだな。決行は明朝午前6時。6時半に出発して空から降下、その後WALTS施設周辺を破壊、乗り込む。 向こうの規模は調べた限りではざっと4〜500人。レイバーはおそらく最低でも30機はもっているだろう。 正面から勝負するのは得策ではない。だから部下数名に陽動を頼んである」 「そっちが暴れている間に俺らは最低限の敵を倒して進入、け〜じを助ける、と。そういうことだな?」 「まあそういうことだ。だができれば俺は施設をすべて破壊したいと思っている。奴らも全員殺してな。復讐・・・ではないがあいつらを この国でのうのうと生かしておくのも気に食わないからな」
・・・やはりこいつは過去に縛られていると思う。そんなことしたって何もならない。それがわかっていてもやるのだ。 いや、俺だって親友を助け出すために人を殺す覚悟をしているんだ。他人のことは言えないのかもしれない。それでも俺は・・・
「・・・それでいいのかよ・・・向こうにだって家族があるだろうに・・・」 「じゃあなにか?俺の家族はどうなったかわかってるんだろ?同じことだ!・・・そんな奴らに俺は人権を認めない。・・・俺は殺す。 おまえは好きにしろ」 「わかったよ。だが俺は向こうの言い分を聞くまでは殺さない。理由の無い殺しはないんだからな」
また重い沈黙があたりを包む。どうしてこうなってしまうのだろうな・・・ そんな空気に耐え切れずまた雄太が言葉をつむぐ。 「・・続けよう。救出が任務な以上は当然無茶は出来ない。したがって外部に設置されている武装を排除したらあとは白兵戦になる。 こちらからは弾薬と手榴弾くらいしか用意できないがな。あと、規則では遺書を書くことになっているが・・・」 「もちろん書かないぞ。ついでに弾薬も最低限は持っているから必要ない」 「だろうと思ったよ。じゃあこれでだいたいのところは説明した。今日はもう寝てくれ。部屋を用意させてある」 「ああ・・・じゃあおやすみ・・・また明日な・・・」
俺は兵士に案内された客室に入ると荷物を置き、ベッドに寝転がる。
なんだかな・・・ある意味でこれは俺の我侭ではないだろうか?無理を言って軍にもぐりこみこうして私情で動いてもらう・・・ こうしてまた俺は他人を巻き込んだ。自分のために・・・け〜じを助けるために・・・だが口ではああいっていたが これは雄太の復讐でもあるのだろうから俺が気に病む必要はないのかもしれない。でも・・・
いや・・・やはり何かおかしい。いくらなんだって事が順調すぎる。三浦とはたしかに中学が一緒だったが それ以降そんなに深い付き合いがあったわけではない。ましてタイミングが良すぎる。 よほど前から準備していないと・・・少なくとも部下の手を借りるなどというのは1日2日で出来ることではない。
ひょっとして俺は誰かの手の上でまたしても踊らされているのではないか・・・そんな気分に陥る。
しかしたとえそうだとしても何も出来るはずもない・・・俺はそんな自分に腹が立って布団の奥深くに潜り込んだ。 そして思った・・・自分にはこれしか道がないのだと・・・そう深く、深く思い込んだ・・・
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眠れない・・・神経が昂ぶっているわけでも疲れがないわけでもない・・・だが眠ることが出来ない。
「少し散歩でもするか・・・」
俺は部屋を出ようとして外にいる兵士とぶつかる。 「おっと、悪いな。・・・見張っているのか?」
だがどう見てもそうではない。そいつは丸腰だし何より目にそういう緊迫感がない。
「いえ、そういうわけでは・・・あ、私は三浦大尉の部下で神楽修と申します。父から噂は常々うかがっております」 「父?・・・神楽・・・ああ、そうか、あんた先生の・・・なつかしいな。道場では世話になった」 「ええ、私はあまり覚えていませんがお見かけしたことはあります」 それはそうだろう。俺は門下生というわけではなくただ先生に武術を習い行っていただけだ。一般の生徒が練習に来るようなときに 顔を出したことはなかった。 「そうか・・・で、何か用かな?」 「いえ、たいしたことでは・・・ただ父が賞賛する才能というものを見てみたかっただけです」 「賞賛?けなされたことしかないような気がするんだがなあ・・・評価していたのか、あの人」
俺は苦笑する。たしかに一定の評価がなければ長年仕事を回してはくれまい。だがまさか他人にそんな話をする人とは思わなかったのだ。
「いつも話しておられましたよ。あの力は真なるものになれると・・・私は嫉妬ばかりしていましたがね」
真なるもの・・・それは先生が目指す正義を持った力・・・今の俺にそんなものがあるのだろうか・・・
「ま、立ち話もなんだ、入れよ。俺の部屋じゃないが」 「いえ、せっかくですが明日があるので・・・」 「そうか、残念だな」 「・・・あの、ひとつだけ訊いていいですか」 「なんだい?」 「あなたは・・・本当は何者なのですか。私にだって力が少しですがあります。そしてあなたに感じられるのは・・・」 「・・・俺は・・・ただの人間だ。それ以上でも以下でもない。力だってひょっとしたらちょっとした勘のようなものは持っているかも しれないが、特別な力など・・・」 「それはないですよ。これだけ運命に逆らっていまだに生かされているあなたが・・・只者であるわけがない。察するに・・・」 「そんなことを・・・知っているということはおまえはWALTZの関係者なんだな・・・ その辺にしておけ。俺に深く関わるというのはその決められた運命に関わるということなんだろう?・・・死ぬぞ」
「・・・わかりました。ただこれだけは覚えておいてください。力以外のもので得られる世界だってあるということを・・・」
俺はその言葉を聞くと静かに扉を閉めた。・・・わかっているよ。ただ俺は恐いんだ。世界が、俺が知っているはずの世界が。 WALTZの活動を改めて俺はネットで調べた。正気の沙汰とは思えない。破壊した建造物311、予想死者数1600人以上・・・ そんな連中とかかわりあって無事ですむとは思えない。俺も、あいつも・・・
寝ている間にわずかだがヴィジョンを見た。修は・・・おそらく死ぬ。断片的ではあるが俺の見た映像はそのことを暗示していた。 そして今、俺はたしかに感じた・・・あいつのまわりには死の匂いが濃厚に満ちている・・・
気になることがあった。修は俺が「生かされている」といった。それはWALTZの連中にという意味か?それとも他のなにかか? いや、やめよう。どのみちもうじきわかることだ。 俺は今度こそベッドで深い眠りについた・・・ -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
翌朝。俺は手早く着替えると装備を整える。5時。朝食は携帯食で終わりだ。味気ないものだが軍の食事、まして作戦前ともなれば こんなものだろう。
ひととおり身に付け終わると雄太が部屋に入ってくる。 「おはよう。さあ、そろそろだ。レイバーのチェックをするから整備庫のほうに来てくれ。これが駆動キイだ」 「ありがとう。すぐ行くよ」 整備庫に入ると独特のマシンオイルのにおいがする。その中には3機のレイバーがハンガーに置いてあった。おそらく俺と雄太、それに 一緒に来る部下のものだろう。
しばらく眺めていると雄太が声をかけてくる。 「よう、どうだ?これがお前さんの機体、AVR−0‘零式’だ。このカラーリングがいいだろう?」 「・・・なあ、なんで軍で使用されているものがこんな色をしているのか訊いてもいいか」
全体のフォルムはまあいい。理にかなった流線型だ。アンテナが突き出ているのが多少気になるが実用品だから仕方あるまい。 メインカメラのほかに3つのセンサーがついていて、その左手には大型のシールドが装備されている。 背部には降下用と思われるスラスターを背負っていてなんだか登山に行く観光客のようだ。
だが問題はカラーリングだ。本来このテの機体というのは隠密行動・・・というか奇襲のためにあるはずだ。 それなのにこいつは白地にライトブルーというとんでもない色合いをしている。てっきり迷彩色だと思っていた俺は度肝を抜かれた。 「まあなんだ、いろいろな理由があるんだ。空から降りるのだからこの色でいいだろ?」 「いや、よくねえだろ・・・だいたいなんで朝方なんだ?普通は夜暗いうちに行くもんじゃあ・・・?」 「そ、それは・・・」 「・・・なんかおかしくないか。俺ひとりのために軍の人間をこんなに動かせるはずはない。そしてこの機体はこんな目立つ色をしている。 まるで俺をそこに連れて行きたがっているみたいじゃないか。・・・俺を殺すだけならこんな手の込んだ真似をする必要はない・・・ そうだろう?」
とすると考えられるのはやはりひとつだけだ。雄太もまたWALTZに協力している・・・ だが俺はそんな疑いをかけたくはなかった。こいつは俺の数少ない友人なのだ。それを・・・
「そうだな・・・おまえに隠し事は出来ないな・・・わかった。すべてを話そう。話は俺の妻が死んだ時から始まる・・・」
こうして何度人に裏切られれば俺は人を信じなくなるのだろう? 幾度となく裏切られて、それでもまだ人を信じたくて・・・また傷付く。俺の業は永遠に変えられることがないのだろうか・・・
「あの方と出会ったのはまさしくあの時だった。俺は事件の真相を知りたくて犯人を追っていた。そしてそこでひとりの女性に出会った」
おそらくWALTZの人間のことだろう。俺は次の言葉を待った。
「あの方は俺が初めて出会った本物の‘恐怖’だった。絶望かもしれない。わかるか?幾度となく死線を潜り抜けてきたこの俺が 恐怖を抱いたんだ。あの方は絶対的なものだった。その姿は天使のように美しく、その力は悪魔のごとき・・・ ・・・俺は今でもわからない。あいつが天使のような悪魔だったのか悪魔のような天使だったのか・・・」
「・・・それがあいつか・・・クロスボウを持った白い服の女・・・」
「そうだ。そして俺は変わった。妻の死を引きずっているなんて嘘だ!・・・そう、嘘だったんだ・・・」
・・・全体像が少しずつ見えてくる。やはりWALTZは俺を欲しがっているようだ。しかし雄太が協力していたとは・・・納得が 出来なかった。 「なんでだ?どうして自分の奥さんを殺したような連中に協力する?俺にはわからねえよ・・・」 「・・・俺は可能性を見たからだ。あの方にこの世界の本質を探れる可能性を・・・そう、それは神の領域すら見られる可能性だ。 ・・・俺はそれを信じたい」 「・・・わかった。どのみち歩む道が違うんだろう。俺にはわからない。だが、け〜じは助ける。それだけだ。案内はしてくれるんだろ?」 「もちろんだ。本当にすまない・・・結果としてだますことになってしまって・・・」 「気にするな。自分の主義を貫くためだろう?」 「ああ・・・」
「困りますね。そんなに種明かしをされてはおもしろくないですよ」
そんな声が横から上がる・・・修か。その手にはサブマシンガンが握られている・・・まあ当然か。部外者にそんな話をしたんだ。雄太 は消されて当然だろう。だが・・・ 「まあいいじゃないか。多少は俺にだって知る権利はあるさ。それに俺はどうあっても行くといっているんだ。殺すことはないだろう」 「死ぬのはあなたではなく三浦大尉殿ですよ、相馬さん。ここからは私が案内いたしますので」 「いらない。雄太がいれば十分だ。俺は意外と義理人情には厚いほうなのでな。こいつを殺すというなら俺が相手となってしまうぞ」 「・・・構わん。ゆ〜じ、行ってくれ。俺はここで死ぬ運命なんだ。・・・そう決まっている」 「そいつぁ違うな。死相が出ているのはおまえじゃなくて修のほうだ。ほら、行くぞ!」
俺はそういうと同時に毎度お馴染み照明弾を投げる。 「ほら、走れ!格納庫のレイバーに行くぞ!」 雄太の背中を押して走る。まず撃ってはこないだろう。俺に当ててはまずいからな。
俺はハンガーにたどり着くと雄太と別れ、手早く起動の準備をする。・・・ヒュイイイイ・・・小気味のよい起動音が鳴り響く。 と、同時にモニターにOSのマークが表示される。Kagura Ver.6.04・・・これは先生が作ったシステムなんだな・・・ つくづく先生のさまざまな方面での才能に驚かされる。
ほどなくしてメインモニターが写る。そこにはヘルダイバーに乗り込む修の姿があった。 無線を使い俺は雄太に「外に出る!ここで奴を倒してからWALTZの施設に向かうぞ!」と叫ぶ。
いきなりぶっつけ本番で戦闘をするはめになるとは思わなかったが・・・仕方ないか。よし。各部アクチュエーター問題なし。 マニュピュレーターのモーショントレーサーもOK。よし、行くぞ!
なれているからか雄太はもうすでに外に出ている。 俺は機体を格納庫から滑り出させる。
外に出ると同時に修のヘルダイバーが飛び出してくる。俺を無視して雄太をたたくつもりか・・・そうはさせん!
間に機体を割り込ませると同時に俺はナイフを抜いた。ねらいは・・・やはり足だ。脚部が動かなければどうにもなるまい。 「先生には悪いが・・・やらせてもらうぞ、修!」 「僕は・・・本当は楽しいんですよ。あなたの力を見れて!」 機体をオートバランサーに任せて、俺は体勢を下げ足元を狙う。速い!これが零式の反応速度か! 奴はそれを軽くバックステップしただけでかわす。だがそれだけでは隙だらけだ。 「うおおおお!」 上段に変化させてメインカメラを狙う! カツ・・・それを修はシールドで払いけりをくりだしてくる。 「のわぁ!」 まともにくらって零式がバランスを崩す。だがなんとかもちこたえる。さすがに先生が作ったプログラムだけあるな。
しかし・・・モニターの表示が多いな。相手の座標、機種名、武装や火器管制システム・・・こいつの欠点をむこうが知っていたら まずいな・・・ そう思った瞬間修が突っ込んでくる。俺は身構えた・・・
ドン・・・冷たい音が響く。そうか・・・そうだよな・・・これは・・・仕方ないんだよな・・・
雄太の機体の肩から硝煙が上がる・・・固定武装の肩部マスドライバーカノンだ。 「俺を忘れているからだ・・・バカが・・・戦いを楽しむ・・・それもいいかもしれんがな・・・」
弾はコックピットを貫通している。即死だろう。 自分の部下を殺さなくてはならない・・・つらいことだ・・・そしてただ悲しい・・・
「俺も・・・そう簡単に運命に従うことは出来ないらしい・・・妻のことを忘れたわけではない。・・・せめて 彼女の・・・妻の分も生きたいからな・・・だから俺は死ぬわけにはいかないんだ。さあ、行こう。もう小細工は必要ないだろう」 「・・・わかった。少し待ってくれ」
・・・なあ修。おまえは何のために生まれてきたんだろうな・・・誰かに殺されるためか?いったいなんでこんなことをしなくては ならなかったんだろうな・・・おまえが運命に従って死んだのか?それとも雄太が運命に従って生きたのか? 俺にはその答えはみえねぇよ・・・
「力以外のもので得られる世界もあるということを・・・」
そんな修の言葉が浮かぶ。
そうか・・・おまえはそれを目指していたんだな・・・あいつらの理想とは本当はかけ離れていたんだな・・・おまえは・・・ どうやら圭司のことを抜きにしても行く理由が出来たようだ。狂信集団のようなWALTZ・・・俺は許せんな・・・
「俺にはそんな権利はないかもしれない。だが・・・それでも俺は行くんだ!お前達に会いに!そして・・・」
そして・・・俺はひとつのことだけを言うだろう・・・お前達は間違っていると・・・
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来る・・・キャリス・マクレインは相馬裕次郎がここに向かっているのを感じていた。すでに神託で彼が来ることはわかっていたがいつか までは聞いていない。だが彼女にはそれがわかった。
すでに夜は明けている。手はずは整っているし、何一つとして不安材料はない。だが・・・ 「それでも不安なのだな・・・私を不安にさせる・・・相馬・・・裕次郎・・・!」
そうつぶやくと同時に運命の扉が重い音をたてて開かれた・・・
to be continued......