We live in the restraint.....that named the 'past'. We must solve the chain.....from our heart..... ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- やがて建物が見えてくる。長野の中でもわりあい海に近い白馬村だ。 かなり大規模なものなものらしく最大望遠で見渡す限りでも研究所のような建造物が4、マンション・・・おそらく兵舎だろう・・・ が3棟、どうやらそれ以外にも地下になにかあるようだ。建築学も多少学んでいる俺はそう推測した。 思わずつぶやきが漏れる。 「あれが・・・WALTZの総本山ってわけか・・・なかなか派手にやってるもんだな・・・」 「そうだな・・・たしかにやりすぎたのかもしれん。相馬、俺たちは、いや、この周辺全域は今政府によって監視されている。事態に  よっては・・・消されるかもしれん。・・・それでも・・・おまえは行くか?今ならまだ降下せずに引き返す道も残されている」 ・・・なるほど。それで軍の対応が早かったわけか。だが俺の答えは決まっていた。 「だぁかぁら。け〜じを助けにゃならんのだって。いくらなんでもあんなところで実験動物にされてたりしたら寝覚めが悪いだろうが。  それに・・・その真意を確かめなければならない。修のことも、死んだたくさんの人間のことも。このまま引き返すのだけはごめんだね」 「・・・そうだな。俺はただ確かめたかっただけだ・・・おまえのことも俺自身のことも・・・  さあ、そろそろ降りるぞ。システムチェックしておけよ」 「ああ。・・・っていくらなんでも降下シミュレートなんかやったことないんだけどな・・・うまくいくかね・・・」 「大丈夫だ。下肢オートバランサーはFモードに。そのまま衛星の目にまかせておけば自動でやってくれる」 「よし・・・オートバランサーチェック・・・オートパイロットに切り替え・・・着陸モードで待機・・・」 二人の機体はそのまま施設の発着場に誘導される。やがて見えてくる相手の本拠地に俺は興奮とも恐怖ともつかぬ感情を抱く・・・ それらは果たして・・・俺達に一寸先の闇を知らせる役を買っているのだろうか? ドドン・・・重い・・・それでもレイバーの中では軽量級なのだが・・・が2機同時に着地する。総重量は20t近くになる。 「よし、成功・・・パラシュート切り離し。バランサーも異常なし。マニュアルに戻してと・・・」 「・・・なあ、あれはなんなんだ。ただの案内とは思えないんだが」 ポートに一機のレイバーが留まっている。 「・・・そのようだな。おまえの噂は組織内でもかなり広まっている。おそらく・・・腕試しだろうな」 「はあ・・・当然付き合う義務があるってことか・・・しょうがない。さくっと片付けるぞ」 「ああ、ただし俺は仲間にはさすがに手を出せない。そんなことをすればこの場で処刑されてしまうからな」 では修はどうだったのか・・・いや、おそらくあれはここでも公認のことであったのだろう。 ズシン・・・鈍い音を立てて両機が着地する。 そこはおおよそヘリポートの様相ではなく、相馬にはまるで古いオリエントの古戦場のように見えた。 ビーッビーッ・・・コックピットに警告音が鳴り響く・・・ 「敵機照合・・・ドイツ製の軍事レイバー、タイプ11シュタイナーか・・・」 おととしまでドイツの国境警備用に使われていたタイプ7ブロッケンの発展系だ。零式ほどのスピードは ないが、その分厚い装甲、パワー、連続稼動時間時間には定評がある。 だが、まだ正式にロールアウトはしていない機体だ。そんなものが当然のようにある・・・それだけでもこの組織の規模が うかがえるというものだ。そしてそんなもののデータが入っているこの機体もまた・・・ 「ひゃーはっはっは!てめ〜が相馬裕次郎か!くくく・・・噂には聞いているぜ・・・俺ぁザインだ・・・ここじゃあ7番目に強い・・・ へへ・・・なんでもお前妙な力があるらしいじゃねえか・・・俺の愛機に勝てるかなぁ!おら、来いやぁ!」 「・・・うるさい・・・ボリューム自動調節とかないのかね・・・これの無線機は・・・んで雄太、あれほんとにやっちゃっていいのか?」 「ああ、別にいいだろ。あれがいてうちに利益があるとは思えん。  一応うちの中でもそれなりに地位のある奴だが・・・所詮はパイロットあがりだ。レイバーの操縦以外にとりえなどない」 「にゃるほどね・・・んで、あれの力はなんなんだい?でかい口をたたくことか?」 「まあそんなところだろう。俺だって協力しているだけで特別力があるわけではない。  ただ便利だからいるだけという奴もいくらでもいる。ここはそういうところだ」 「きさまらぁぁ!オレサマを無視するんじゃねぇぇぇぇぇ!くそお、くらえぇぇぇぇぇ!」 俺は・・・別にこんな奴の相手をしなくてもよかったはずだ。 だがあえてそれを受けた。それこそが俺に隠された暴力性の片鱗なのかもしれない。 シュタイナーがつっこんでくる。俺は冷静に機体の重心を低くして待ち構える。 「ぼさっと突っ立てて何が出来るんだよ!うらぁぁぁぁ!」 「くっ・・・思ったより速いのか!」 零式の肩部の装甲が吹っ飛ぶ。ラリアットをかわしきれなかったのだ。 「今度はよけるなよぉぉ!一瞬でスクラップにしてやっからよぉぉぉぉぉ!」 「んなわけにいきますかっての・・・この!」 零式の機体が脚部からすばやくアタックナイフを抜く。そしてそれをすれ違いざまに腰椎板アクチュエーターに突きたてた。 ガキィ!鋭い音が響く。それと同時に冷却液が漏れ出した。 「そこまでだな。関節部を壊した。もう立って歩くことも出来ないはずだ」 「く・・・くっそぉぉぉぉぉぉ!まだだ!」 パシュ・・・腕からシュタイナーが円筒をはきだした。 「煙幕か!ええい、赤外線モニターにきりか・・・」 シュウウ・・・コックピットが開く。目の前にはショットガンを手にしたそいつがいた。 「形勢逆転だな、相馬ぁ・・・くへへへ・・・おら!」 「ぐっ!」 銃の腹で殴りつける。 「出ろよ。ここは狭めぇからよ・・・げへへ・・・」 ザインが襟首をつかんで乱暴に俺の身体を外にたたき出す。 「つつ・・・うああ!」 そこに横から蹴りが入る。またしても俺の身体は地面に叩きつけられた。 「おらおら、どうしたぁ?おもしろくないぜぇ・・・そろそろ死ぬか?」 「ち・・・不意打ちで図に乗っているんじゃない・・・」 減らず口を叩くが痛みで立ち上がることも出来ない・・・意識が・・・ 「うるっせぇぇぇぇ!なんであろうとてめぇはやられてんだよぉぉぉぉ!」 ザインはマウントポジションをとると相馬を素手で殴りつけた。 「がはははははは!ひゃぁっはっはっは!死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!」 みるみるうちに相馬の顔に醜いあざが染み込む。ザインの拳に血がこびりつく。そしてそれを見ているしかない三浦・・・ それは周囲にいる者も目を背けるような行為だった。 「くくく・・・遊びはおしめえだ。死ね」 ザインは腰からハンドガンを取り出すと相馬の額にあてた。 いつからだろう・・・人が生きるため以外に生物を殺すようになったのは。自らの快楽のために他者を殺し、生物の枠組みから外れた のは。 いつからだろう・・・こうした行為に人が恐怖を覚えなくなったのは・・・そう、自分も・・・ 「何をぶつぶついってやがんだ?気が狂っちまったか?でもおもしろくねえよ。もっと怖がれよ。恐怖を覚えてる奴を殺すのは鳥肌が 立つくらい気持ちいいんだよぉ・・・」 目の前の人という枠組みを外れた生き物・・・いや、その枠すらはみ出しているかもしれない・・・が何かをつぶやく。そして・・・ 「見える・・・そうか・・・そうなるんだな・・・」 俺は・・・今度ははっきりと言葉にした。 「死ぬことは怖くない。だが・・・死んだという歴史が残るのが怖い」 「ああ?何言ってんだ、おまえ?」 「わかるか。歴史とは恐怖なんだ。真実はいつでも創ることができる。そう、何度でも・・・ だが事実は一度しか・・・起こらないんだ!」 すばやくザインの腕をつかむ。 「悪あがきかぁ?くらえよ!」 ドン!だが銃弾は素早く脇によけた相馬の髪の毛を少し削っただけだった。 「な・・・!てめえ!」 「こういうときに便利な能力だな!」 相馬には先が‘見えて’いたのでわずかに身をよじってかわしたのだった。 わずかにザインに出来たスキをついて相馬はザインの顎に頭突きを叩き込む。と同時に・・・ 今度はザインの体が宙を舞っていた。 「がぁ!」 地面に叩きつけられて一瞬息が出来なくなったザインの手から銃を蹴り上げ、次の瞬間には腹にエルボーを決めていた。 「ぐはぁ・・・うう・・・」 「先生からグラウンドの返し技はかなり特訓されたからな・・・一瞬のスキさえあればこのとおりだ」 「く・・・殺してやる・・・殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅ!」 ザインが隠し持っていたナイフを抜く。 「おっと・・・そいつは俺の専売特許だぞ」 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 しかし突進してきたザインはあっさりと右腕をとられ投げられていた。柔道の一本背負いだ。 「そんなスキだらけの突進で俺をどうにかできるわけないだろ?ちったあ頭を使え」 「ぐ・・・くそぉぉぉ・・・」 「無駄ですよ・・・猪突猛進で殺せる相手ではありません・・・」 「!?」 ザインのそばにいつのまにか女が立つ。背は低く、濃紺のシャツにジーンズという格好で、容姿はまだあどけない少年といった感がある。 まるで童話にでも出てくるような・・・そう、どこか中性的な雰囲気を漂わせている。実際にかなり若いのかもしれない。 「ラ、ラリッサ・・・」 「あなたは前から好きではなかったのです・・・使えないとわかった以上はもう生かしておく理由もありませんね。さようなら」 淡々とそう告げた次の瞬間には・・・ザインの首はそばに転がっていた。 普段から動体視力を鍛えている相馬はそれをやった凶器がワイヤーであることに気付いた。 「・・・別に俺は『殺すことはなかったんじゃないか』なんていうほど熱血漢じゃあないが・・・目の前で人が殺されるというのは いつ見ても気分が悪いものだな」 「ふふ・・・ナーバスなのですね・・・それに次はあなたの番ですよ」 「そりゃまた物騒な話だな。君も腕試しかい?」 「いいえ・・・私はただキャリス様に危害が及ぶのを懸念しているだけです・・・不安要素は早々に消すべきですからね。 申し遅れました、私はラリッサ。ここの警備を一任されているものです。したがってここにあなた方を招きいれたのも私の一存です。 本当なら対空砲火で落としてもよかったのですが・・・ キャリス様ほどのお方がお気になさる人物を一目見たいという気持ちがありましたので・・・感謝してください。 もっとも少し死ぬ時期が延びただけですがね・・・」 「・・・なんだかな。そういう油断は死に繋がるもんだが。それに俺はまだやるなんて言ってない。・・・しっかし・・・」 相馬は三浦のほうに歩み寄るとその肩に手をかけて言った。 「なあ・・・なんでここの連中はこんなのばっかなんだ・・・」 「いや、俺に言われても・・・それにここに多少マシな例もいるし・・・」 「おまえも十分ダメな部類だ」 「この野郎・・・あとで叩きのめす」 ふう・・・なんかひさびさに漫才をやれたような気がする。やはり一刻も早くけ〜じを助けなければ・・・ 「!」 一瞬虚空に光がきらめく。相馬はナイフでそれを捌くとバックステップで距離をとった。 「油断は死につながるんではなかったんですか、相馬さん」 「んなこたぁわかってるよ。しかしふいうちといいさっきの殺し方といい・・・顔に似合わずエグい真似をするな」 「ええ、よく言われます」 相馬の厭味に微笑すら浮かべてそう返す。 「しかしその物言いだとキャリス様とやらにべったりのようだが・・・指示を仰がなくていいのかい?勝手に殺してしまって?」 「ふ・・・言ったでしょう、私の仕事はキャリス様の身の安全を守ることだと・・・死になさい、相馬」 ふたたびラリッサのワイヤーがきらめく。 「待て!」 静止の声にラリッサの動きが止まる。声のするほうを見ると・・・ ・・・また変態だ、変態がいる・・・ 「やれやれ・・・馬鹿とわからずやの次は仮面男かよ・・・ここも層が厚いねえ・・・」 今度はまるでどこかの舞踏会で被るような仮面をつけた男が現れる。澄んではいるが・・・やはり男だとわかる声。俺はおそらく20代 後半だと判断する。 「待ちなさい、ラリッサ。相馬様は大事な客人です。・・・少なくともキャリス様や私にとっては。それ以上やるというなら・・・私が お相手致しましょう」 「く・・・突然現れてそのようなことを・・・どういうことだ、ハスター!」 「言葉通りですよ。たしかにここにいるものは皆キャリス様の為に働いています。 しかし・・・誰しもがあなたの持つイデアの元で動いているわけではないのです。戦いも、政治も常に先を見て行わねば なりません。あなたは賢い人だ・・・わかりますね?」 「それほどお前が打算的だとは思っていなかったがな!・・・まあいいだろう・・・ ・・・取り乱して失礼しました。相馬様、三浦・・・ここは退きますが・・・ また後程・・・今度こそはあなたがたを殺すために参上いたします。それまでにせいぜいキャリス様の機嫌を損ねぬようにするのですね」 「はいはい、それが地だろ、無理して敬語なんか使うなよ・・・」 「!!!・・・貴様・・・」 「ラリッサ」 「・・・わかっていますよ、ハスター・・・」 そう呟くと次の瞬間にはラリッサの姿は人込みの奥に消えていった。 「行ったか・・・で?あんたは何者だ」 「ああ、ご紹介が遅れました・・・私はハスター。旧き盟約の元に生まれ、そして無貌の神の中に消えた神々のひとりです・・・」 「ペンネームの由来を訊いた覚えはないが・・・まあいい。俺達をどうするつもりだ?」 「どう・・・とは?」 「まだるっこしい会話はやめようぜ。また戦うのか、それともキャリスの元に案内するのか。後者であることを望むがな」 「ああ、そうでしたね。いいでしょう。キャリス様のもとまでご案内致します」 ようやく話が進むわけだ。さて・・・さしあたってやるべきことは・・・ 「おい、雄太。あいつは何者だ?」 「さあ・・・俺の知らない奴だな。前にも言ったと思うがこの施設は広い。俺が知らない奴だっているさ。だが・・・キャリス様の ところへ案内できるような上の人間の存在をまったく知らない・・・というのには違和感を覚えるが・・・」 「罠・・・か?」 「どちらにせよ行くしかないんじゃないか。強行突破はちと難しすぎるぜ」 そう言いながら周りを見る。・・・なるほど、この人込み・・・少なくとも100人近くはいる・・・無理だな、いくらなんでも。 「わかった。じゃあ早速案内してくれ。ああ、あと出来れば・・・周りの物騒な連中に俺達の機体を触られないようにしたいんだが・・・」 「ふふ、大丈夫ですよ。ここの地下のホール吹き抜けになっていますから・・・レイバー程度のサイズなら十分に入れます。 そのまま乗ってお入りください。ああ、申し訳ありませんが武装は外してください。中で暴れられては困りますから」 「・・・待ち伏せされていたらアウトだ。それは出来ない」 三浦が割り込んでくる。 「いや、いいだろう。銃とレールガンは外す。ただしナイフは持たせてもらおう。それでいいな、ゆ〜じ?」 「・・・そうだな、それなら俺はいい」 「わかりました。構造上中からの攻撃には弱いので用心したのです。あなたがたがそんな無作法な真似をするとは思っているわけでは ありませんよ」 妙だ。この言いぐさ・・・まるで昔から俺達を知っているみたいだ。 「・・・後ろから撃つような真似はしてもね」 !!!・・・まさかこいつ・・・ 「行きましょう。時間がありません。地上は激戦になるでしょうから・・・」 とりあえず俺は零式に乗りこんだ。システム全般に問題はなさそうだ。サテライトシステムは切らないとダメだな、地下だから。 起動するとすぐに三浦が接触回線で話し掛けてきた。 「なあ、ゆ〜じ。あいつ・・・なんだか俺達を知っているような口ぶりじゃないか?」 「断定するのは早いけどな。俺達の修との戦闘もここを政府が襲撃するという情報も知っているだけかもしれんし」 「・・・まあそうだが・・・『あいつ』だとしたら・・・いや、あの状況で生きているわけがないか。行こう」 ふと見るとハスターもレイバーに乗りこんだようだ。機種は・・・オライオンか。作業用の一般的なものだ。 一般回線にウィンドウモードで割り込んできた。・・・自己顕示欲の強い奴だ。 「こちらです。大型エレベーターを乗り継いでキャリス様の研究室に向かいます」 研究室?科学者かなんかだったのか、キャリスって?まあ行けばわかることか。 「本当だ、レイバー3機が悠々入るな・・・」 「最大で一度に6機のレイバーを搬入することができます。もっともそんなに一度に運んだのはここを建設したときだけですが」 「へえ・・・」 俺は素直に感心した。 さて・・・これでいよいよ・・・というかようやく親玉に会えるわけだ。け〜じは無事だろうか・・・ ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- WALTZ研究所地下13階・・・蘇生実験室・・・ 永遠とも思える時を「彼」は過ごしてきた。いや、実際にキャリスにはそう思えた。 「・・・・・・」 ガラスケースに横たわる「彼」の姿は在りし日のまま変わらず、いまにも起きだして私に声をかけてきそうだった。 なつかしい声がよみがえる。 「ほら、キャリス!見てごらん。これがこの前話していたものだよ」 そう言って私の手を握る。それと同時にたくさんのコトが流れ込んでくる。言葉では伝えられない何か・・・とても素晴らしい何か。 「・・・・・・」 失語症。私は当時そんな病気にかかっていた。でも不自由はなかった。「彼」は優しかったし、何より私には「力」があった。 触れただけでその人の考えていることがわかる「力」。死んだ両親は忌み嫌っていたけれど「彼」だけは・・・兄だけは・・・私を 普通の・・・ただの女の子として扱ってくれた。 「ジュークボックスっていうんだ。今ではもう見かけなくなったけど、旧世紀ではありふれたものだったんだって。・・・あ、解説は いらないか」 そういって苦笑する兄は楽しそうにしているけど、どこか寂しそうで・・・その理由までわかってしまえる自分もまた自然と 兄のような表情になっていた。 「動かしてみようか?ここにコインを入れて・・・」 チャリン・・・そんな音がする。きっと私にこれを見せるために何度も試したんだろう。 しばらく兄がなにかいじるとやがて音が鳴り出した。三拍子。どこかで聴いたことのあるワルツ。 「さあ、踊ろうか。ゆっくり、ただ時の流れに身をまかせて・・・」 コク。そっと頷くと兄に身を任せた。静止した闇の中で、世界から隔離されて育った私には兄がこの時代の全てだった。 ピッ。ふいにラックトップPCの作動音で現実に引き戻される。 「キャリス様、相馬様と三浦を内部にお連れしました。あと4分20秒ほどでそちらに到着します。・・・これでよろしいのですね」 「ああ、ご苦労だったな、ハスター。地上の様子はどうなっている」 「予定通りです。朝霞地区の基地は第3機動連隊が排除致しました。現在ここに向かっている敵一個大隊は特機2個中隊が迎撃を しています。しかし・・・もって36時間といったところですね。数が違いすぎます。やはり中部に展開中の部隊を呼び戻すべきでは?」 「迎撃システムの稼働率は」 私はハスターの意見は無視して次の質問をした。 「はっ、それは予定通りであります。現在破壊された施設は地対空ミサイル発射機2機、オートモビルレイバー3機、以上です。稼働率 は96%以上を維持しております」 「ならばいい。ここは明朝午前9時をもって破棄する。有人機の撤収準備を急げ」 「了解しました。二人を案内したあとキャリス様の撤退用にF2通路を確保しておきます。・・・ただし想定時刻をオーバーした場合は ・・・」 「その場合は個々の判断で脱出して構わん」 「わかりました。御武運を」 ピッ。モニターが切断される。相変わらず自己顕示欲の強い奴だ。或いは・・・「あれ」の反動か。それに戦闘をするわけでもないのに 何が武運なのか・・・まあいい。 「いよいよか・・・私の悲願も達成される・・・」 その代償がこの基地だというなら安いものだ・・・そう思った。 すべては・・・ここで終わり、そして始まる・・・                                   To be continued.............